あとがき
マーケティングは、環境変化に適応するための学問ないし技術の一つであり、状況や時代の変化に応じて次々と新たな手法が開発されています。
また、対象や目的に応じて、マーケティングの考え方や理解、あるいは方向性が変わってきます。
さらにマーケティングに関わる当事者の立場や状況によっても、その位置付けや課題が違いますし、導入するマーケティングの手法も異なっています。
例えば、マーケティングを学問的に研究する学者と、筆者のようにビジネスの現場でマーケターとしてマーケティングに取り組んでいる者とでは、マーケティングに関する認識に食い違いや大きな隔たりが存在することも否めないでしょう。
しかし、多くのマーケティングは、基本的な要素や手順、技術によって構成されている点は普遍的であり、すべてのマーケティングの基盤となっていることも事実です。
本書では、「マーケティングとは?」の問いに対し、スポーツ組織の運営という視点から体系的にまとめたものです。その際、コトラーの「マーケティング3.0」をベースとしたことは本文中に述べたとおりです。
スポーツは、ご存知のように社会に深く浸透しています。
スポーツの振興や普及、生涯スポーツ社会としての取り組みの他、教育や地域振興、職域の開発による雇用機会の創造、国際交流などに関連する事業が非常に多く存在します。その意味では、スポーツは他の一般商品と比べて格段に公共性が高いといえるのではないでしょうか。
また、スポーツの「産業」としての発展により、観光との組み合わせによるスポーツツーリズムなどの新たなムーブメントも台頭しており、今後さらに多くの可能性が広がっていくと考えられます。
細かい作業レベルでは基本的な法則やパターンはありますが、戦略レベルでは、その時々の環境や状況に応じて導き出すべき順番や手順などは異なるということです。
マーケティングを実践する上では、成功確率を上げるために自ら最適な順番を導き出す(決断する)ということが大切だと思うのです。
本書では、様々なスポーツ・マーケティングの手法を解説しましたが、その内容を実践に活かされる際には、ぜひこのことを念頭に置いていただければ幸いです。
[参考文献]
●『マーケティング3.0』(フィリップ・コトラー他、恩蔵直人監訳、藤井清美訳、朝日新聞出版、2010年)
●『コトラーの「マーケティング」実践ワークブック』(宮㟢哲也、秀和システム、2009年)
●『コトラーのマーケティング理論が面白いほどわかる本』(宮㟢哲也、中経出版、2007年)
●『社会的責任のマーケティング』(フィリップ・コトラー、ナンシー・リー著、恩蔵直人監訳、早稲田大学大学院 恩蔵研究室、東京経済新報社、2007年)
●『フィリップ・コトラーの「マーケティング論」がわかる本』(宮㟢哲也、秀和システム、2006年)
●『コトラーのホスピタリティ&ツーリズムマーケティング 第3版』(フィリップ・コトラー、ジョン・ボーエン、ジェームズ・マーキンズ、白井義男監修、平林祥訳、ピアソン・エデュケーション、2003年)
●『エスキモーに氷を売る』(ジョン・スポールストラ、中道暁子訳、きこ書房、2000年)
●『サービス・マネジメント』(リチャード・ノーマン、近藤隆雄訳、NTT出版、1993年)