スポーツマーケティング入門|はじめに

紀伊国屋書店にて|2011年発売当時*右下

はじめに

オリンピックにワールドカップ、そして数々の国際大会…、
スポーツはいまやグローバルな舞台で展開される国民的イベントとなっています。

ところで、スポーツは、「参加型」と「観戦型」という2つのカテゴリーに分けることができます。

前者は、心身を健全に維持・向上させストレス解消を図るための絶好の手段であり、後者は人々の生活に活力や感動をもたらす優れたスペクタクルでもあります。

しかし、そのようなスポーツも適切な運営ができなければ、社会的な悪影響をもたらし、存続の危機を迎えることもないとはいえません。

そこで、そのソリューションとして最近注目されているのが、「スポーツマーケティング」です。

本書は、スポーツに関するマーケティングの基本的な考え方、手法や技術、方向性などをコトラーの「マーケティング3.0」を参考に紹介しています。

第1章~第4章では、主にスポーツマーケティングの意義や考え方について解説しています。

第5章~第7章では、マーケティングを行う上で最も大切な現状を把握するための技術や方法を、そして第8章では、今後、目指すべき具体的な方向性を7つの視点で挙げています。

スポーツは、例えそれが営利事業として行われる場合であっても、向かい合う公衆が多様であり、目的も複合的で提供するものも無形サービスが中心となります。

さらに、相撲協会で生じた数々の不祥事に対する世間の反応からもわかるように、一般の営利組織に比べて厳しい目が向けられます。

今後、企業等の営利組織についても、マーケティングのあり方は「物の売り買い」を対象としたものから「顧客との関係づくり」へと進化し、そしてさらに、社会そのものを対象とするようになっていくでしょう。

その意味で、スポーツマーケティングには、他の一般商品に対する手法に加え、多面的な顧客を含む関連機関へのアプローチが必要となります。

本書ではそうしたスポーツマーケティングの意義と特徴、あるいは社会とのかかわりなどについて、事例や図解を交えてわかりやすく解説しました。

アマチュアスポーツを主軸に目覚ましい発展を遂げたスポーツも多いのですが、国内においては、ビジネスとしての成功事例や継続的な事業として完成されたものはまだまだ多くありません。

しかし、今後、多くのスポーツ組織は、社会事業という段階から収益性を兼ね備えた事業に変換を図る過程にあります。

私は、長年スポーツへの参加や観戦を目的としたスポーツ旅行(最近は、スポーツツーリズムと呼ばれている)に携わってきました。

そこで、多くのスポーツの可能性と魅力を実感し、その中で創造される価値を体験してきました。

その一方で野球やサッカー、マラソンなど、世界の数多くのスポーツビジネスにおける実情も目の当たりにしてきました。

周知のとおり、巧みにビジネス化して成功しているスポーツがある一方、低迷を続けているスポーツや一過性のブームに終わるスポーツも多く存在します。

しかしスポーツは、一般企業より社会への貢献や役割について優れた面を持つことも事実です。

いまや多くの一般企業が、「利益の追求」「顧客の創造」に加え、「社会的価値」への取り組みを視野に入れています。

読者の皆様が、本書を参考にそれぞれ置かれている状況や立場、抱えている課題などに対し、既存のマーケティング手法などを活用しながら新たな手法を開発し、多くの成果に結び付けていただければ幸いです。

またスポーツマーケティングを体系的に理解し、方向性を定めることで、その結果として社会全体が豊かになる一助となることを心より願っています。

久保田正義

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