スポーツにおけるプロダクトの意義と種類
スポーツ産業においても、スポーツ消費者のニーズを捉え、様々な製品開発がなされています。
競泳用の水着一つをとっても、少しでも水の抵抗を少なくして好タイムが出せるようにということで、従来にはなかったスパッツ型やロング型などのハイテク水着が主流になっています。
また以前、その流行が社会現象ともなった「エアマックス」を開発したナイキなどは、メジャースポーツだけでなく重量挙げや射撃といった比較的マイナーなスポーツのシューズを開発し、「ロングテール」的な要素も含め、それぞれのパイは小さくても様々なセグメントのニーズを拾うことで、スポーツ市場のシェアを上げると共に、少しでも多くの利益につなげようとしているのかもしれません。
水着やシューズはスポーツに使う「道具」としてのプロダクトですが、スポーツプロダクトには、これら以外にも「経験を消費する」といった側面もあります。
そこで、コトラーの「製品レベル」の考え方を借りて、簡単にスポーツプロダクトについてまとめておきたいと思います。
製品レベルとはプロダクトの質や顧客にとってのベネフィットの水準を示したもので、5つに分かれます(次図参照)。
顧客が、プロダクトの購入を通じて、その物体、というよりも実質的なベネ
フィットやサービスを買っているということは、すでにお話ししました。
歯磨き粉の利用者は、「清潔で白い歯」を手に入れているし、高級ホテルの利
用者は「睡眠・休憩に加え、非日常的なリッチ空間」を手に入れるわけです。
このように、そのプロダクトを購入すれば一応得られるだろうと思われるベ
ネフィットを「中核ベネフィット」といいます。
スポーツプロダクトの中核ベネフィットは、例えば、フィットネスクラブを利用したときには「爽快感」や「健康な体」を手に入れ、プロクラブチームなどの試合を観戦したときには「感動」や「昂揚感」などを手に入れていると想定されます。
しかし、これらについてはスポーツ消費者の期待度や主観によるところもあるため、各スポーツプロダクトの中核ベネフィットが何であるかというのは、必ずしも明確に特定できない面もあるでしょう。
そこでスポーツプロダクトの提供者は、ターゲットをかなり絞り込んで中核ベネフィットを明確にするか、ターゲットはそのままで多面的な中核ベネフィットのまま提供するのかといった点を検討する必要が出てきます。
中核ベネフィットを第1レベルと考えれば、第2レベルは、「基本製品」です。これは、中核ベネフィットを実現するための具体的なプロダクトです。先ほどのフィットネスクラブの場合は、中核ベネフィットである「爽快感」や「健康な体」を手に入れるために使われるトレーニング機器や設備などを指します。
第3レベルの「期待製品」は、サービスを購入すれば付いていると期待されるプロダクトです。同じくフィットネスクラブであれば、ウェアや道具のレンタル、トレーニングマシンなどの設備、技術などについて指導してくれるコーチなどです。
第4レベルの「膨張製品」は、顧客の期待の上をいくプロダクトです。フィットネスクラブで入会者におしゃれで役に立つグッズが特典として付いてきたり、エステティックサロンやネイルサロンが併設されていたり、利用者がプロダクト(この場合はクラブ)を選んで良かったと思う製品です。言い換えれば、顧客満足度を引き上げるものです。
しかし、膨張製品の良し悪しで明暗が分かれることもあります。
先に挙げたフィットネスクラブの入会者にグッズをプレゼントする場合、Aというクラブでは有名で人気が高いブランドのグッズをプレゼントして、Bというクラブではいかにもオマケです、というような質の低いものであれば、それ以外の条件(会費や期間、施設など)がほぼ同じであれば、やはりAのクラブが選ばれる確率がかなり高くなるでしょう。
そして第5レベルの「潜在製品」は、そのプロダクトを選択した時点では明確ではないものですが、後に膨張製品になる可能性のあるものです。例えばフィットネスクラブで様々な運動やスポーツを行うことで、肌の調子が良くなるとか交流関係が広がるといったことです。
一般にプロダクトやサービスを開発、提供する場合、中核ベネフィットや期待製品については工夫を凝らしますが、そのあたりで止まっている場合も比較的多い気がします。
しかしコトラーは、すべてのプロダクトの競争は膨張製品のレベルで生じている(発展途上国では期待製品レベルで生じている)と指摘しています。
つまり、スポーツプロダクトも他業種のプロダクトと同じような状況といえるでしょう。