新製品価格戦略:スポーツビジネスの価格戦略(5)-7

カーレース

新製品価格戦略

新製品の価格戦略には、スキミング・プライス戦略とペネトレイション・プライス戦略の2つがあります。

どちらを選ぶかは、利益をどの段階で回収するかなどを基準に決定されます。

スキミング・プライス戦略は、日本語で「上澄み吸収価格戦略」といいます。

Skimとは、液体から出てきた上澄み(牛乳を温めたときにできる白い膜や豆乳を温めてできる湯葉など)をすくい取るという意味です。

プロダクトを市場に投入した初期段階で高価格を設定して、利益を早めに回収してしまう戦略です。

この価格戦略は、開発や設備、時間など多額のコストや投資が必要なコストが高い半導体や携帯電話、家電製品などによく見られます。

プロダクトの出始めに価格をそれほど気にせず、とにかく試してみたいという消費意欲の高い層を狙った戦略でもあります。

そのため高額所得者やマニア層、専門性の高いニッチ層などをターゲットにするケースもよく見られます。

特に他社の類似品が比較的早期に市場に出やすい新製品の場合は、早期に利益を回収する方策を検討する必要があるでしょう。

またスポーツ旅行のような購入から消費までにある程度の時間があり、一定期間内であれば無料で取り消せるようなものは、他社の類似品との入れ替えが容易であるため、価格に見合った内容であることはもちろん、付加価値を創造する必要があります。

付加価値の例としては、そのスポーツをより身近に感じられるような工夫がなされているものが挙げられます。

例えば米国や欧州では、クラブルームのビュッフェでの食事付きパックが設定されているスポーツ観戦チケットもあります。

またモータースポーツでは、出場する自動車を整備する「パドック」や、レースの途中で自動車のタイヤ交換や給油を行うための「ピット」に入れるパドックパスや、ピットウォークが含まれた観戦パスも発売されています。

一方、ペネトレイション・プライス戦略は、スキミング・プライスと反対に市場導入時に比較的低価格を付ける戦略です。

Penetrationとは浸透という意味で、日本語では、「市場浸透価格戦略」といいます。

まず低価格で市場に広めることを目的としています。

「お試し価格」と称して、シャンプーや化粧品が通常より低い価格で売られることも、ペネトレイション・プライス戦略の一つといえます。

なぜこのような戦略をとるかというと、製品を繰り返し生産することで、規模の経済性が働き生産コストが減少していくと想定しているからです。

製造原価は基本的に一定で、生産コストが減少するほど、単位コストが下がり利益幅が大きくなるという考え方です。

それに早い時期にマーケット・シェアを獲得すれば、利益の安定化につながることも期待できるということを前提にしています。

ただし、途中で多くの競合他社に参入されると競争優位性が薄れたり、ライフサイクルが短い製品の場合には、初期の利益を確保できなくなったりするリスクもあります。

その他、原材料の品不足や仕入れ価格の急激な高騰なども大きなリスクとなります。

スポーツの場合、直接的な価格戦略ではありませんが、市場浸透のために招待券というかたちで「観戦チケット」を配布する場合がよく見受けられます。

海外でも、スコットランドや英国など欧州ではラグビーの人気が高く入場者数も多いですが、だからといって観戦チケットが売れているわけではありません。

というのは、売れ残ったチケットを20~30枚単位で知人などに招待券と称して無料配布し、それを受け取った人たちが観戦するというパターンが繰り返されているからです。

このように招待券を乱発すると、試合の価値そのものがあいまいになり、本来、重要な有料観戦者が思うように確保できなくなる可能性があります。事実、スコットランドなどでは観戦チケットが売れなくなってきています。

また招待券の乱発により、「(無料の)招待券が手に入らないと試合に行かない、というファン」が増えたケースもあります。

仮にチケットを手にしたとしても試合の価値が理解できず、興味を失うといったことも起こりえます。さらには優先されるべき有料で入場したファンとの不公平感などが発生することにもなりかねません。

こうした価格戦略をとる場合は、ファンが納得できる理由を明確にすることはもちろん、招待券の希少性をファンにきちんと認識してもらう必要がありますし、戦略的な位置付けのもと、一定の運用ルールが不可欠です。

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