スポーツと価格戦略
顧客の購買行動を左右する価格戦略は、他の業種と同様にスポーツプロダクトにおいても非常に重要で、よく検討する必要があります。
とりわけ、価格の設定については細心の注意が必要です。
提供側は利益を確保できることを重視して設定する場合も多いでしょうが、それに傾き過ぎると、かえって売上が伸びないという場合もあります。
そこでこの項目では、代表的な価格設定の方法を紹介し、そのメリットとデメリットを解説しておきます。
コストプラス型価格設定
基本的な価格設定の手法に、コストプラス型価格設定があります。これは、基本的には原価や営業経費、流通経費などに企業側の適正と思われる利益をのせて価格を設定する方法です。
例えば、テニスラケットの価格を決める場合、仮に1本当たりの原材料が3,000円、営業経費が2,000円、その他流通経費が3,000円で、それに企業側が2,000円の利益を乗せて10,000円で販売する、といった具合です。
実際にはあくまで算出された価格を基準として、競合他社の価格を参考にしながら最終的な価格が決定されることが多いです。
この方法は必要な経費や利益も確保するという点では価格設定の方法として特に大きな問題はないように思われます。
しかし現実には単純にコストをプラスしただけの価格では、一般的に市場で競争優位性を持つ可能性はかなり低いといえます。
というのは、次のような理由があるからです。
❶以前より消費者の情報力や判断力が上がっている
インターネットの普及などで、消費者の情報力は格段にアップしています。
「価格.com」などの価格比較サイトでは、家電製品や携帯電話から葬儀に至るまで、様々なプロダクトの価格が比較できます。消費者は、一目でどこが安いのかわかるのです。
ちなみに価格.comで、あるメーカーのテニスラケットの値段を見てみると、
一番安い店舗と一番高い店舗では、価格差が1万円以上ありました。
テニスラケットは、NEWモデルは商習慣上、値下げはされないため、モデルチェンジ後に店舗により価格差が出ることが多く、その際の価格差が大きく反映されているのです。
人間には価格が高ければ、なんとなく良質であろうと思い込む習性があるといわれています。
これを「価格-品質連想」といいます。
しかし消費者が他に安価な同等製品があることを知れば、それが通用しないので、結局、より安い方に流れてしまうというわけです。
❷顧客の値ごろ感と合わない
コストプラス型価格設定では、提供側の論理だけで顧客の視点はそれほど反映されていません。企業側は適切と思っても、顧客は「そのプロダクトの内容なら、もっと安くないと買わない」と思うかもしれません。または価格に見合った付加価値を求めます。
このように消費者が購入してもよいと思える値ごろ感をカスタマー・バリューといいます。いい換えると「このプロダクトなら、いくらまでなら出してもいい」という価格の上限となります。
反対にカスタマー・バリューと対立する考え方をテクニカル・バリューといい、こちらは企業側から見たプロダクトに対する価値です。
コストプラス価格設定は、テクニカル・バリューに基づく価格設定ともいえます。
この2つの考え方に大きな差があるときは、市場での適切な価格設定ができなくなる恐れがあります。
スポーツプロダクトにおいては「経験価値」に重点を置くものは、個人によるカスタマー・バリューの差が出ることも多いと思われます。
ただしプロダクトの特長を顧客に正確かつ適正に伝えることができ、その特長が正当なものと評価されれば、こうした問題点は解決でき、カスタマー・バリューをテクニカル・バリューに近付けることができるでしょう。