消費者の好みは時代と共に変化している
マスマーケティング*の時代、消費者は、人と同じ物を身に付けることで満足し、そのことを希望してもいました。
企業はコストをかけずに自社の都合に合わせて、いかに良いプロダクトを大量生産するかを考えればよかったのです。
これがプロダクトアウト*の発想です。
このようなプロダクトアウトは、人類を豊かにリードする側面が強く、むしろ高く評価されるべきだろう。
ところが、現在は顧客ごとに好みが異なります。
いくら良いものでも同じものを大量に生産すれば売れ残りができる可能性があるのです。
それに顧客の好み はどんどん細分化されています。
そのため、企業側がただ「こういうプロダクトがウケるだろう」というような、生産者側の都合や「読み」だけで顧客のニーズに合わせたプロダクトを提供することが難しくなってきました。
そこで直接顧客と情報交換を行うことで顧客ニーズを満足させるプロダクトを提供しようという取り組みが活発になったのです。
これが先のプロダクトア ウトの対極に位置する考え方で、いわゆるマーケット・インの発想です。顧客との関係性を大事にするリレーションシップ・マーケティング(relationship marketing)もその一手段となります。
スポーツ業界についても状況は似ています。
以前スポーツ観戦といえば、野球か相撲、プロレスやボクシングなどが主なものでした。
しかし現在は、サッカー、ゴルフ、バレーボール、バスケットボール、陸上競技、フィギュアスケートなど、非常に多種多様なスポーツの試合が各地 で行われています。
各団体の努力により選択肢が多くなったわけです。
また自分が参加してスポーツをする場合も、ゴルフ、テニス、草野球、ボウリ ング、マラソンやジョギング、あるいは近くの公園でバトミントンが代表的なも のでした。
しかし時代と共に、これらに加え、サーフィンやスケートボード、フットサルなど多くのスポーツを楽しめるようになりました。
選択肢が少なかった頃は、例えば、バッティングセンターなら近くのバッティングセンターがライバルだったわけですが、現在は、近くにあるフィットネスクラブやテニスコート、それにゴルフ練習場などすべてのスポーツ施設が、ある意味競合先となるわけです。
こうした状況を打破するためには、どうすればよいでしょうか。
その有効なヒントがジョン・スポールストラ氏の著書『エスキモーに氷を売 る』に示されています。
スポールストラ氏は、1991 年にNBA(全米バスケットボール協会)で観客動員数最下位だったニュージャージー・ネッツの社長兼CEOとなり、チケット収入伸び率で、27球団中第1位にまで導いた人物です。
その中では、売上を増やす実行すべき万能のカンフル剤として既存顧客に個別にアプローチし、もう少し買ってくれるように直接頼むことも大切だと述べ られています。
従来、ネッツは観客のデータベースを構築せず、今シーズンのチケット保有者のデータしか保管していませんでした。
そしてシーズンが終わるとチケットの購入者のデータは消去されていたのです。そこでスポールストラ氏は、チケットマスター(チケットの販売会社)に頼んでクレジットカードでチケットを購入した人たちの名前を洗い出し、その人たちに観戦の回数を増やし てもらえるように手紙を送ったのです。
その後も、スタッフに試合のスケジュール表がほしいと電話してきたファンの住所と名前を聞きデータベースに入力するように命じ、データベースを充実させていき、いつでもカンフル策としてチケット販売の案内ができるようにしたのです。
これは、日ごろの顧客との人間関係が良好に保たれていることが前提となる ことからリレーションシップ・マーケティングの重要性を示す事例ともいえるでしょう。
*マスマーケティング 大量生産体制を前提に、広く大衆を相手にするマーケティング。
*プロダクトアウト ただし、ウォークマンやiPad、あるいはFacebook などは、それまで誰も思い付かなかった画期的な商品やサービスを企業側の独自の発想で創造・提供したものである。